四国遍路はにほへと
ISBN:9784863870055、本体価格:1,200円
日本図書コード分類:C0095(一般/単行本/文学/日本文学評論随筆その他)
250頁、寸法:127×188×18mm、重量358g
発刊:2010/05

四国遍路はにほへと

【帯紹介文】
 この道は、歩くといわず踏むという。
 四国遍路は弘法大師空海が修行したゆかりの聖地を踏んでいく巡礼だが、人間空海が四国遍路の開創者とするのは、歴史上の事実とは言いがたい。
 空海が弘法大師の贈り名を天皇から賜ったのは、空海没後86年のこと。吉報を手に、東寺の長者・観賢が高野山の奥の院の御廟を開いて目にしたものは……。
 この時をもって、人間空海は神であり、仏でもある弘法大師として甦る。
 歴史上の事実と信仰上の事実。お遍路さんたちは、この二つの事実を矛盾なく受け止め、大師を慕って今も四国の聖地を巡っている。
 「モノが違う」というのが私の読後感だ。これまで多くの遍路本といわれるものを拝見してきたが、先達の立場から大師信仰一筋を強調したり、民俗・儀礼の立場から現場の行為ですべてを説明したり、或いは自分の体験だけに価値を求める「マイ遍路」だったり、何らかの偏りが見られるのが常だった。そのすべてを総合止揚した一冊に初めて出合った。「四国遍路」を次のステージにいざなう好著である。
   種智院大学前学長 密教学者 頼富 本宏

【あとがき】
 筆者はプロデューサーという肩書きで広告業界に籍を置いている。
 筆者と「四国遍路」との出合いは、27年前の1983(昭和58)年のことである。この年、筆者が居住する香川県に本社を置く四国新聞社が創刊95周年を迎え、当時の広告部長・今村慶夫氏から周年記念の連載企画を任されることになった。
 折しも香川県は、本州四国連絡橋児島・坂出ルートの完成を5年後に控え、経済に多大な恩恵をもたらすであろう「新しい道」の創造で、かつてない熱気に包まれていた。
 こうした時代背景のもと、筆者は香川県内の四国霊場66番札所雲辺寺から88番札所大窪寺までの「へんろ旧道」を紙面で紹介する『へんろ道を行く』を企画した。掲載はおよそ1年におよぶ20回シリーズとなった。
 取材にあたっては、「へんろ旧道」を長年調査されていた、当時、千葉大学教授の浅野二郎先生とスタッフの皆さんにご指導をいただき、同スタッフの渡辺達雄さんに先達を務めていただいた。
 取材中、行く先々で貴重な体験をした。中でも、夕暮れ時、80番札所國分寺にさしかかった我々一行が受けた在所の方々のお接待は、今も深く脳裏に刻まれている。
 各界の学識経験者や地域の人びとと共に歩き、さまざまなアングルから涅槃の道場と呼ばれる讃岐の「へんろ旧道」を紙面でとりあげたこの企画は、日本新聞協会第4回新聞広告賞・奨励賞を受賞した。
 この仕事を契機に、筆者は「四国遍路」をライフワークとすることを決意した。
 その後、1990年の第38回全日本広告連盟香川大会に際し、四国新聞に24ページ特集『四国遍路』を企画・制作させていただくという好運に恵まれ、さらなる勉強の励みとなった。
 それからおよそ20年たった今、四国では「四国遍路」を世界遺産にという機運が高まっている。
 筆者はこれを契機に、さらに多くの人たちに「四国遍路」に関心を持っていただきたいという思いに加え、世界遺産登録に向けての論議の輪のさらなる拡大を願って本書を上梓した。
 筆者はもとより学者ではない。加えて浅学であり、執筆した内容については、「四国遍路」を多年に渡って研究されてきた諸先輩がたが残した文献をもとに、若干わかりやすく書いたに過ぎない。従って、筆者がこれまでに目を通した全ての文献を一覧として記すべきだが、主要書籍に限定したことをお許し願いたい。なお、頼富本宏・白木利幸両先生のお書きになった「四国遍路の研究」は筆者のバイブルとするところであり、参考文献にとどまらない影響を受けていることを記しておく。
 最後に、筆者を「四国遍路」と出合わせていただいた今村慶夫氏(故人)と筆者が「四国遍路」の師と仰ぐ白井加寿志先生と渡辺達雄氏、並びに一昨春、鬼籍に入った親友のコピーライター西川和彦氏の助言と力添えに深謝する次第である。
   2010年春  牛山 泰博

【目次】
1、参詣と巡礼(さんけいとじゅんれい)
2、この島は身一つに面(おも)四つ(このしまはみひとつにおもよつ)
3、はるかな根の国・常世の国(はるかなねのくに・とこよのくに)
4、大子から太子、そして大師へ(おおごからたいし、そしてだいしへ)
5、役行者と行基(えんのぎょうじゃとぎょうき)
6、聖の住所は石の槌(ひじりのじゅうしょはいしのつち)
7、四国の邊地は伊予・讃岐・阿波・土佐の海邊の廻(しこくのへちはいよ・さぬき・あわ・とさのうみべのめぐり)
8、神と仏が一つになった神仏習合(かみとほとけがひとつになったしんぶつしゅうごう)
9、空海と弘法大師(くうかいとこうぼうだいし)
10、谷響きを惜しまず、明星来影す(たにひびきをおしまず、みょうじょうらいえいす)
11、四国遍路の元祖・右衛門三郎(しこくへんろのがんそ・えもんさぶろう)
12、大師を追慕する旅の始まり(だいしをついぼするたびのはじまり)
13、多彩な開基伝承(たさいなかいきでんしょう)
14、観音浄土へ補陀落渡海(かんのんじょうどへふだらくとかい)
15、大師信仰を広めた高野聖(だいししんこうをひろめたこうやひじり)
16、寺を道とし、道を寺とした一遍上人(てらをみちとし、みちをてらとしたいっぺんしょうにん)
17、「辺路修行」から「四国遍路」への道(「へじしゅぎょう」から「しこくへんろ」へのみち)
18、大師は弘法にとられ(だいしはこうぼうにとられ)
19、巡拝の証しに札を打つ(じゅんぱいのあかしにふだをうつ)
20、四国遍路の父・真念(しこくへんろのちち・しんねん)
21、江戸時代のパスポート・往来手形(えどじだいのぱすぽーと・おうらいてがた)
22、全国254ヵ所巡礼(ぜんこくにひゃくごじゅうよんかしょじゅんれい)
23、四国遍路と共に栄えた金毘羅さん(しこくへんろとともにさかえたこんぴらさん)
24、四国遍路に一石を投じた木喰行者(しこくへんろにいっせきをとうじたもくじきぎょうじゃ)
25、絵図に見る四国遍路(えずにみるしこくへんろ)
26、四つの道場(よっつのどうじょう)
27、道に霊場あり(みちにれいじょうあり)
28、「八十八ヵ所」、数字の謎(「はちじゅうたちかしょ」、すうじのなぞ)
29、遍路の心を支える同行二人(へんろのこころをささえるどうぎょうににん)
30、札始めは勝手によるべし(ふだはじめはかってによるべし)
31、順打ちと逆打ち(じゅんうちとぎゃくうち)
32、修行の基本は禊と行道(しゅぎょうのきほんはみそぎとぎょうどう)
33、南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)
34、聖なる呪文・真言(せいなるじゅもん・しんごん)
35、秘密の蔵を開く般若心経(ひみつのくらをひらくはんにゃしんぎょう)
36、言霊とマントラが一つになった御詠歌(ことだまとまんとらがひとつになったごえいか)
37、遍路の戒め・十善戒(へんろのいましめ・じゅうぜんかい)
38、四国遍路の正装・白衣(しこくへんろのせいそう・はくえ)
39、遍路を導く金剛杖(へんろをみちびくこんごうづえ)
40、宇宙と交信する鈴の音(うちゅうとこうしんするすずのね)
41、「空」を教える菅笠(「くう」をおしえるすげがさ)
42、通し打ち、区切り打ち(とおしうち、くぎりうち)
43、修行の聖地は奥の院(しゅぎょうのせいちはおくのいん)
44、山号で読みとる寺院(さんごうでよみとるじいん)
45、三門を心得て、いざ山門へ(さんもんをこころえて、いざさんもんへ)
46、喜捨をいただく托鉢行(きしゃをいただくたくはつぎょう)
47、闇の中から甦る胎内くぐり(やみのなかからよみがえるたいないくぐり)
48、いつでも、どこでも行える三密行(いつでも、どこでもおこなえるさんみつぎょう)
49、身を捨ててこそ浮かぶ捨身行(みをすててこそうかぶしゃしんぎょう)
50、一に焼山、二にお鶴、三に太龍、遍路泣く(いちにしょうさん、ににおつる、さんにたいりゅう、へんろなく)
51、邪心を断つ関所寺(じゃしんをたつせきしょでら)
52、とび石、はね石、ごろごろ石(とびいし、はねいし、ごろごろいし)
53、孤独な遍路の長丁場(こどくなへんろのながちょうば)
54、遍路の行く手を阻む四百八十川(へんろのゆくてをはばむしひゃくはっしんせん)
55、橋の上では杖をつかない遍路の作法(はしのうえではつえをつかないへんろのさほう)
56、何を語るか遍路墓(なにをかたるかへんろはか)
57、女性を大らかに包み込む四国遍路(じょせいをおおらかにつつみこむしこくへんろ)
58、集落の入り口に建つ大師堂(しゅうらくのいりぐちにたつだいしどう)
59、菩薩道が秘められた庵(ぼさつどうがひめられたいおり)
60、迷い道多きゆえに標石を埋めおくなり(まよいみちおおきゆえにしるしいしをうめおくなり)
61、野宿・辺路屋・木賃宿、ありがたいのが善根宿(のじゅく・へんろや・きちんやど、ありがたいのがぜんこんやど)
62、お接待は人を選ばず断らず(おせったいはひとをえらばずことわらず)
63、新四国、島四国(しんしこく、しましこく)
64、れっきとした四国遍路・お砂踏み(れっきとしたしこくへんろ・おすなふみ)
65、生涯280度の四国遍路(しょうがいにひゃくはちじゅうどのしこくへんろ)
66、おためし、おかげ
67、身を隠す秘仏(みをかくすひぶつ)
68、札所から姿を消した神社(ふだしょからすがたをけしたじゅんじゃ)
69、四国遍路は宗派を問わず(しこくへんろはしゅうはをとわず)
70、季節遍路、時なし遍路(きせつへんろ、ときなしへんろ)
71、大人への道・若者遍路(おとなへのみち・わかものへんろ)
72、四国遍路に押し寄せた新しい波(しこくへんろにおしよせたあたらしいなみ)
73、生まれ続ける大師伝説(うまれつづけるだいしでんせつ)
74、存亡の危機を乗り越えて(そんぼうのききをのりこえて)
75、四国は曼荼羅(しこくはまんだら)

【著者紹介】
〔著者〕
牛山 泰博