文理融合 ~ある理系人間の短詩型文学~
ISBN:9784863870178、本体価格:1,000円
日本図書コード分類:C0092(一般/単行本/文学/日本文学詩歌)
264頁、寸法:148×210×15mm、重量402g
発刊:2011/10
【序】
高松市文芸協会会長 木村 日出夫
本書の著者、石川浩先生は、平成9年月に香川大学に工学部、平成年4月に大学院工学研究科を創設して、初代工学部長・工学研究科長の重責を担われた。その任期は、学部創設準備室長の時代を含めると、実に9年半の長きにわたっている。当該工学部の創設理念は「文理融合」であり、本書の題名にも採用されている。
京都大学工学部、米国コロンビア大学工学部、香川大学商業短期大学部、香川大学経済学部と内外の異質な組織でいろいろな異文化を体験し、悩み、苦しみ抜いて新たに自分の境地を拓いてきた石川先生は、その貴重な体験を新設工学部の創設理念となすまでに、「文理融合」に対する思い入れは強い。工学部出身の技術者が、組織という歯車の単なる一歯に留まらず、グループを陣頭指揮してプロジェクトを完成させ、気がつけば「何だ、工学部出身者だったのか」と驚かれるような、理系でありながら理系色を全く感じさせない幅広さを持ち、国内外の舞台で縦横に活躍する新世紀の工学プロフェッショナルの育成が、石川先生の宿望とするところのようである。
また、石川先生は、上杉鷹山の「為せば成る」を信条とし、何事にも積極果敢にチャレンジする逞しさを持っている。自身が工学部出身の理系人間でありながら、俳句、川柳、短歌を独学でこなし、いろいろな新聞紙上等に投稿、掲載された活字を眺めては楽しんでいたらしい。事実、私が選者を務める毎日新聞香川版「毎日ぷらざ」俳句欄にもしばしば投稿があり、私も何度か入選句として選んだ記憶がある。平成20年1月日には、毎日新聞「毎日ぷらざ」最優秀作品「年間賞」の俳句の部で「大賞」を受賞された。
独学で大賞まで獲得する技倆は大したものとは思うが、ここは一番、しかるべき俳句結社に入会して本格的に研鑽を積み、風雅の真髄を会得することこそ正に、「文理融合」の志に適うと思い、鍵和田.子主宰の「未来図」への入会を勧めたところ、直ちに入会し、句作の再修業に努められている。必ずや好結果が得られるのではないかと、秘かに楽しみにしている。
ともあれ、独学時代と一線を画するべく、これまで新聞紙上等に掲載された俳句、川柳、短歌を取りまとめて、本書を上梓された。その労を多としたい。
地(ほ)球(し)救ふ「文理融合」梅真白
意気込みは和魂洋才みどり満つ
吾妹(あぎも)との喜怒哀楽雲の峰
堅香子の花に万葉の昔あり
山桜遠くにありてこその華
蟷螂や食ひ殺すほど愛深し
本句集より作句魂躍如たる句を抜粋してみたが、何と言っても「地(ほ)球(し)救ふ…」の句は、中村草田男の「勇気こそ地の塩なれや梅真白」にも相通ずるものがあり、自らの本道を示す覚悟の一句として賞賛したい。「意気込み…」の句もまた、然りである。「堅香子…」「山桜…」の句は、自然を通して昔日へ思いを馳せる格調。あるいは、山桜を華として捉えるアニミズム等、詩心はまさに豊饒。また、集中愛妻句も多く、気骨ある中にも柔軟な人柄が散見され、微笑ましい。最後の一句「蟷螂や…」の句は正に、愛の極限を「食ひ殺す」とずばり活写した心眼には殊の外共鳴する一句である。
禿筆を呵すことになったが、これからも更なる研鑽を積み、生の証としての秀吟を世に遺されることを期待しつつ、第一句集御上梓のお祝いとしたい。
平年8月吉日
【あとがき】
国立香川大学に「文理融合」を創設理念とした工学部・大学院工学研究科を創設し、初代工学部長・工学研究科長を務めていた平成14年暮れの工学部忘年会における出来事である。宴たけなわのある時、日頃俳句に造詣の深い広報メディアセンター職員・河端豊氏が自句を私に披見、同時に一言「学部長、ご返歌を」と。さあ、困った。これまで俳句など作った経験もないし、さりとて出来ぬと言うのも癪に障る。そこで考えた。工学部が今日のように隆々たる歩みを進め、私が安心して陣頭指揮を執れるのも、教職員各位の日頃の奮闘の賜物である。ここは一番心からお礼を申し上げようと、
支へられ身を引き締めて初明り
と詠み返した。彼の河端氏曰く「素晴らしい、是非新聞に投稿を」と。かくして読売新聞香川版「読売さぬき文芸/俳句欄」に投稿、忘れもしない平成15年1月21日、その句が何と選者評付きの特選句として掲載された。俳句欄わずか20句の選抜で第一席である。心躍ることこの上なし。以来、俳句に興味を覚え、歳時記等を片手に、土日祝祭日、夏冬の長期休暇等を利用して作句しては、パソコン内に書き溜めて来た。その後、季語のない川柳、さらには五七五七七の短歌へと手を広げ、自作のそれらの作品群を、読売、朝日、毎日、産経、四国、山陽などの新聞各紙、並びに「ロータリーの友」誌等に投稿し続けた結果、採択・掲載回数は、平成16年8月に300回、平成17年5月に500回、平成18年2月に700回、平成19年7月には千回を突破した。奇しくも平成16年の年間紙上掲載回数は262回、あの大リーグ・マリナーズのイチロー選手の世界新記録安打数に達した。新設香川大学工学部の創設者として文理融合の創設理念を標榜する理系人間のわが身には嬉しい限りである。よくぞここまで来たという満足感の反面、掲載回数が千回を超えると投稿意欲が急激に失せて、しばらくはロータリーの友誌を除いて投稿を中止することとした。
平成17年3月末日に香川大学を定年退職し、実に久方ぶりに晴耕雨読、自宅陋屋の屋上に植木鉢を多数並べて屋上緑化庭園を楽しむなど悠々自適の毎日を送っていたが、義理ある人に請われて翌18年4月から瀬戸大橋の四国側結節点・宇多津町に所在する香川短期大学の学長に就任した。
このような折に、高松市文芸協会会長であり、著名な俳句の全国結社「未来図」の香川支部長もお務めの木村日出夫先生から、鍵和田 子先生の主宰する俳句結社「未来図」の素晴らしさを説かれ、熱心に入会を勧められた。これまでの独学は自由気ままでよいが俳道の品性・品格に悖るところなしとはしないかと怖れ、「未来図」に入会し、本格的に俳道の再修業を行うこととした。
そこで、この度、これまでの独学時代と一線を画するべく、独学時代に新聞紙上等に採択・掲載された俳句、川柳、短歌を短詩型文学の三部構成として取りまとめることとした。第Ⅰ部の俳句(計204句)については、木村日出夫先生のご指導を仰ぎ、俳句の固有性から作句年代にかかわらず、四季を優先して取りまとめた。木村先生には、日頃から句会、吟行等、心の籠もったご教導をいただくとともに、本書では栄えある巻頭の序文までいただいた。ここに記して厚く御礼を申し上げておきたい。また、第Ⅱ部の川柳(計592句)、第Ⅲ部の短歌(計219首)については、一年間を単位として作句年代順に取りまとめたのが本書である。是非ともご一読いただき、文理融合を標榜するある理系人間の短詩型文学への係わりについてご理解賜るとともに、忌憚のないご意見・ご感想を賜れば望外の幸せである。また、この機会を捉えて古稀近き身の記念として自分史の一端を記録に留め置くべく、巻末に著者略歴および著者自己紹介を付加させていただいた。冗文を呵すことになるが、何卒お許しいただき、併せてご高覧賜れば幸いである。
なお、本書の出版は、高松南ロータリークラブの大先輩で内外パイオニア㈱森恒弘社長のご好意・ご支援の下、(財)南海育英会丸山修理事長および(財)三宅医学研究所三宅信一郎理事長・院長の温かいご支援・ご協力によって実現したものである。また、本書の表紙およびカットは、香川短期大学名誉教授・辻一摩画伯の労作によるものである。辻画伯は、四国新聞の挿絵創作や、全国に名高い「こんぴら歌舞伎大芝居」の開始時から一貫してその絵看板の創作に携わられ、開催周年時には、日本郵政からその偉業を称えた記念切手シート集が発行されたことでも有名な画伯であることは周知の通りである。本書の原稿を一読して「文理融合」のイメージに適った表紙およびカットを創作していただいた由である。いずれも記して深甚の謝意を表しておきたい。
最後に、わが半生、これまで土日祝祭日なく、時間無視で仕事三昧の毎日を送ってこられたのも、愚妻節子の献身的な努力の賜物である。孤独に耐え、立派に子育てを行い、家庭を守り育ててくれたことに心から感謝申し上げる次第である。また、わが父石川浅太郎は今を去る遠き昔、昭和48年3日に享年62歳で急逝し、わが母石川フサノもまた平成15年12月28日に享年86歳で逝去した。子養わんと欲すれども親待たず、何ら親孝行も出来ずに残念の極みである。せめてもの償いに、本書を今は亡き父母に捧げて、その冥福を心から祈念することとしたい。合掌。
平成23年8月吉日 石川 浩
【目次】
序 高松市文芸協会会長 木村日出夫
第Ⅰ部 俳句(第1句集)
新年の部
春の部
夏の部
秋の部
冬の部
第Ⅱ部 川柳(第1句集)
平成15年4月~12月
平成16年1月~12月
平成17年1月~12月
平成18年1月~12月
平成19年1月~7月
平成20年1月~22年2月
第Ⅲ部 短歌(第1歌集)
平成15年5月~12月
平成16年1月~12月
平成17年1月~12月
平成18年1月~12月
平成19年1月~7月
平成20年2月~6月
あとがき
著者略歴
著者自己紹介
装幀・カット辻一摩
【著者紹介】
〔著者〕
石川 浩
〔イラスト〕
辻 一摩
【出版社から】
香川大学工学部の創設メンバーであり、文理融合を標榜する石川氏が、独学で書き留めてきた俳句・川柳・短歌の数々をとまめた1冊。理系人間の緻密さや物の見方が、短詩型文学ではどのように表現されるのか。文系人間にとっても、興味深い書となっている。