物語でつづる中国古代神話
ISBN:9784863870246、本体価格:1,143円
日本図書コード分類:C1010(教養/単行本/哲学心理学宗教/哲学)
216頁、寸法:128×182×12.5mm、重量246g
発刊:2012/07
【著者まえがき】
この本では、みなさんに中国の有名な神話を紹介します。
口頭で伝えられた文学作品、それが神話です。神話は人類が文字を発明する前からすでに存在していました。
神話はまた、想像力にあふれた、美しい輝きを放つ、感動的な物語であるとも言えます。目次をご覧になってもおわかりのように、いろいろな神様や英雄たち、さらには不思議なできごとがたくさん登場します。なかには現実にはあり得ないことや、存在するはずのないものが描かれていたりしますが、しかし、どれもみな私たち人間の想像力から生み出されたものですから、必ずそこには何かしら根拠があるはずです。古代人、特に原始社会の人々が、毎日の暮らしの中で起こるさまざまな自然現象について、その原因を探り、それを克服し、変革しようとした、限りない努力の結果がそこには反映されているのです。
各民族にはそれぞれ固有の神話があります。中国の神話も同様に多種多彩で、その中には人々のこうありたいという理想や願いが描かれています。
たとえば「盤(ばん)古(こ)天地を開く」や「女(じょ)媧(か)人を創り、天を補修する」の話には、古代の人が宇宙の始まりや人類の起源という問題について、どう考え、どう解釈したかが描かれています。と同時に、そこには、人類が万物の中では特別な存在であること、さらには、万物をリードすべき存在であることが語られています。
「禹(う)洪水を治める」「羿(げい)十個の太陽を射る」「神(しん)農(のう)氏(し)百草をなめる」には、水害や干ばつ、病気や猛獣といった、厳しい現実に果敢に立ち向かう様子が生き生きと描かれています。知恵と勇気を持ち、苦難を乗り越え、人々のために働いた英雄たちの姿がそこにあります。
「精(せい)衛(えい)海を埋める」「愚(ぐ)公(こう)山を動かす」「夸(か)父(ほ)太陽を追う」、そして刑(けい)天(てん)や伏(ぎ)(ふく)羲が登場する話では、権威に服従せず、困難に負けない不屈の精神で、自然や社会悪に立ち向かった偉大な姿が想像力豊かに表現されています。
「海に浮かぶ仙人の山」や「不思議な国の物語」では、当時の中国とは異なる地域、たとえば奇(き)肱(こく)(こう)国や長(ちょう)臂(ひ)国(こく)、羽(う)民(みん)国(こく)や不老不死の国などの不思議な様子を通して、また仙人たちの生活を描写することによって、我々をとりまく自然の脅威や日々の労働の苦しみから少しでも逃れたいという古代人の願いが表現されています。
そのほか「黄(こう)帝(てい)蚩(し)尤(ゆう)を捕らえる」や「農師后(こう)稷(しょく)の物語」「燧(すい)人(じん)木をこすって火をおこす」の話では、私たちの祖先が残した輝かしい功績や、模範とすべき人物、すぐれた発明者がたたえられています。
こうしてみると、神話には神様の話や不思議なできごとが書かれてはいますが、それは単なる迷信やどうにもならない運命を示しているわけではありません。厳しい自然やさまざまな社会悪に対して、それに敢然と立ち向かおうとする気持ちを奮い立たせるものなのです。ですからそこには、知恵を働かせ、正義のためにたたかい、人々のために献身的に尽くす姿が力いっぱいうたいあげられているのです。
このことこそが、今私たちが神話を読んで感動を覚え、教訓を得る大きな理由なのです。
中国は世界で最も早く文明が発達した国の一つですので、神話も数多くありました。しかし、さまざまな理由で現在完全な形で残っているものはあまり多くはありません。神話だけをまとめた書物もなく、古典の中にわずかに見られるだけです。そのわずかに残る話が断片的であることもよくあります。そこで今回はそれらの断片的な資料の中で、より意義深いと思われる部分を現代語にしてつなぎあわせ、なるべく完全な物語の形にしてみなさんに読んでいただくことにしました。
著 者 1979年正月 北京にて
【日本語版出版によせて】
神話は人類の「幼年」期に誕生したもので、私たちの祖先が抱いた、自然を征服したいとか、自然の神秘を探求したいといった思いから生まれた美しい物語です。今の人からすれば、とても幼稚で、荒(こう)唐(とう)無(む)稽(けい)なものに見えますが、そこには、毎日を生き抜いていくために闘った当時の人々の力強い意志や、自分たちの力に対する信頼の気持ちがこめられているのです。
世界の各民族はそれぞれ固有の神話を持っています。それは民族の起こりや発展してきた歴史を反映していますし、また民族の精神を最も早く形にしたものでもあり、民族の伝統文化の源でもあります。
近代中国の偉大な学者であり、作家でもある魯(ろ)迅(じん)はその『中国小説史略』の中でこう言っています。 「神話は宗教の始まりであるだけでなく、芸術の起こりであり、実際には文学の源でもある。」
私は幼いころから神話がとても好きでした。始めは母親や先生の口からよく聞かされたものでした。「禹(う)洪水を治める」「精衛 海を埋める」「羿(げい)太陽を射る」など、物語の中で英雄たちが活躍する場面や不思議なストーリーに、私は魅了され、そこからさまざまなことを教わりました。
その後、私が古代文学の研究に従事し、古典資料をひもとくなかで多くの神話資料と接するうち、それらは、それぞれの古典に断片的にしか見られず、整理もほとんどされていないうえに、物語の形さえなしていないことに気づきました。
そこで私は、それらをつないで整理をし、時には想像も加えて、現代の人でも読める生き生きとした物語を作ろうと考えました。それがこの本が書かれたいきさつです。
今回、日本の友人である北原峰樹先生から、この本を日本語に翻訳し、日本で紹介したいという手紙を受け取り、とてもうれしく思いました。北原先生の中日文化交流への熱意に感謝するとともに、この本が広く日本の読者に読まれることを願っています。
著 者 2002年11月27日
【再版あとがき】
一昨年の11月27、28日の二日間、神奈川県開成町福祉会館で「第一回全国禹王サミット」が開かれました。中国の治水の神さまとして知られる禹の名前を記した石碑がある地域の方が登壇され、それぞれにまつわるいきさつや由来が報告されました。東は群馬県片品村から西は大分県臼杵市までの全国18カ所について、7人の方が熱い思いを語りました。
その席で私は、大正時代に香東川河畔で掘り起こされ、現在実物が栗林公園に安置されている「大(だい)禹(う)謨(ぼ)」について報告させていただく機会を得ました。そこで私が報告したのは、この『物語でつづる中国古代神話』が縁で、開成町で活動されている大脇良夫さんとつながったこと、しばらく香東川河畔に安置されていた石碑が、昭和になって平田三郎という方の努力で、江戸時代に香東川の流れを西に導いた西嶋八兵衛が書いたものであることが判明したこと、私が今なお勤務する香川中央高校の生徒会誌の名前が「大禹」であること、などです。
そしてこうした全国とのつながりを契機に、高松では、地元の大学や栗林公園で講演会が開かれたり、「大禹謨」にまつわるお菓子が作られたりするようになり、中国の治水の神さまである禹についての認識がしだいに深まっています。
この全国禹王サミットは今後も各地を巡って続いて行く予定です。また信濃川河畔にも禹王にまつわる碑があるという報告が新たに出てきています。
我が国には中国の神話が時に姿を変え、地域に根強く残っています。普段はそれが中国から来たものとは思わずに過ごしているものもたくさんあるでしょう。中国の神話を知る一助にこの本がなってくれれば幸いに思います。
訳 者 2012年6月
【目次】
著者まえがき
日本語版出版によせて
盤古 天地を開く
女媧 人を創り、天を補修する
神農氏 百草をなめる
燧人 木をこすって火をおこす
「農師」后稷の物語
黄帝 蚩尤を捕らえる
羿 十個の太陽を射る
嫦娥 月に飛び立つ
太陽神炎帝の物語
精衛 海を埋める
夸父 太陽を追う
刑天の物語
禹 洪水を治める
伏羲の物語
不思議な国の物語
海に浮かぶ仙人の山
愚公 山を動かす
蚕神娘
牛郎と織女の物語
再版あとがき
【著者紹介】
〔翻訳者〕
北原 峰樹
〔著者〕
褚 斌杰