近世讃岐地域の歴史点描
ISBN:9784863870741、本体価格:2,000円
日本図書コード分類:C1021(教養/単行本/歴史地理/日本歴史)
314頁、寸法:148×210×19mm、重量497g
発刊:2016/07
【はじめに】
九州の福岡県を出たことがなかった私が、はじめて四国香川県の高松の土を踏んでから、随分と長い歳月が経ちました。この間研究者としての生活を送ることができましたのは、ひとえに日頃からご厚誼をいただいている方々、また香川の地域史研究に奮闘されている方々のご支援、ご協力のお蔭であると深く感謝を致しております。
高松で香川大学教育学部に奉職し日本史を担当することになりましたが。それまでの私の研究テーマが江戸時代末期の藩の政治史でありましたので、地元讃岐の幕末のことを研究してみようと調査を進めているうちに、幕末には讃岐、とくに高松藩で砂糖生産が盛んであったことを知りました。しかしこれに関する本格的な研究がほとんどなされておらず、また史料の発掘も十分でないことがわかり、高松藩の藩財政と砂糖生産との関連について、研究を進めていくことにしました。
高松藩の砂糖に関する研究を進めている一方で、『善通寺市史』をはじめとして、『新編香川叢書』、『寒川町史』、『香川県史』、『飯山町誌』、『新編丸亀市史』、『町史 ことひら』、『高瀬町史』、『大野原町誌』などの自治体史の編纂に参加させていただきました。そのなかで執筆担当として高松藩の政治以外のこと、たとえば丸亀藩の藩政、農村のありかた、幕末の農民の軍事的役割、高松城下町のすがた、金毘羅や門前町の発展なども調査、研究することになりました。
とくに『香川県史』の編纂に参加することによって、それまで自治体史の編纂で分担した分野に限らず、讃岐近世の全体的な歴史のありかたを大いに勉強することになりました。とくに県史編纂に参加した地域史研究者との共同での調査や研究発表会は、これまでの香川の地域史研究にはなかったことでした。これらのことは高松藩に関する研究を中心に据えながら、私の近世讃岐史の研究の視野を大きく拡げてくれることになりました。
これらの自治体史や報告書などに執筆したものを、『地域にみる讃岐の近世』(美巧社2003年)、『藩政にみる讃岐の近世』(美巧社2007年)としてまとめました。そしてこの間高松藩の砂糖統制や高松藩・丸亀藩の財政問題、またそれら以外の近世の讃岐に関する研究論文を執筆していましたので、これらを中心にして『近世讃岐の藩財政と国産統制』(溪水社2009年)、『近世後期讃岐の地域と社会』(美巧社2012年)を出版しました。 ところで、こうした研究の成果を踏まえて、一般の読者を対象とした各種の出版物にも、近世の讃岐に関する文章を書いてきました。それらは概論風、研究余録的なもので、いままで刊行してきた拙著と内容が重複するところもありますが、平易な文章を心がけたつもりですので、研究論文とは違った意味で近世の讃岐の歴史に関心をもち、理解していただけるのに役に立つことができるのではないか考えました。また、これらをまとめておくことも研究者の務めだろうと思いました。書名には悩みましたが、一般向きの内容であるということで、『近世讃岐地域の歴史点描』としました。
本書の内容は厳密には区別しにくいものもありますが、一応、概論と余録に分けております。それぞれについては内容的な分類をせずに、順番は刊行年の古いものからとすることにしました。本文は執筆当時のままを尊重しましたが、文章の内容をわかりやすくするために表題を変更したり、文意が十分に伝わっていなかった、あるいは今からみて間違っていたなどの箇所は修正しました。また新たに小見出しをつけて読みやすくしたところもあります。またルビもできるだけ付けました。一般の読者を対象として書かれたものですので、厳密に出典を記していない箇所もありますがご了承下さい。
今後の讃岐の近世史研究の発展に、本書はほとんど役に立つような内容のものではありませんが、近世の讃岐史の一端を述べたものとして、讃岐の地域史研究に関心をもっておられる方々に、何らかの参考になれば大変有り難いと思っています。私自身これからも健康の許す限り、近世讃岐の地域史研究を続けていきたいと念じています。
なお、本書の口絵の写真は大体各文章の内容に関係した順に、江戸時代から現在まで残されているもの、あるいは最近まで残っていたものなどを載せております。また、元の文章には挿絵が入っておりましたが、それらはすべて省かせていただきました。
本書の出版にあたり、旧稿を掲載した刊行物を発行された多くの出版社、資料館、自治体等より、転載のご了承をいただきました。厚くお礼を申し上げます。
平成28年5月 木原 溥幸
【目次】
はじめに
Ⅰ部 概 論
一 生駒藩と御家騒動
1 生駒親正と高松城下町
2 関ヶ原の合戦と生駒藩
3 生駒家と藤堂高虎
4 西島八兵衛と満濃池
5 新参家人の台頭
6 生駒騒動
コラム・小豆島の大坂城石丁場
二 塩飽廻船と勤番所
1 塩飽水軍の活躍
2 西廻り航路と塩飽
3 塩飽廻船の全盛
4 廻船業の衰退
5 勤番所の設置
三 近世の塩田と高松藩
1 自然浜・揚浜・入浜
2 瀬戸内の入浜と藩
3 藩の塩田政策
4 高松藩の塩田開発と久米栄左衛門
5 坂出塩田の築造
四 讃岐の近世
1 生駒藩
2 高松藩と丸亀藩
3 溜池と水論
4 漁場争い
5 讃岐の廻船
6 讃岐三白
7 藩政の改革
8 百姓騒動
9 幕末の海防
10 金毘羅と遍路
11 学問の発達
五 近世瀬戸内の商品流通と航路(講演記録)
1 瀬戸内海と西廻り
2 廻船業の発展と港町御手洗
3 忠海の船問屋
4 北前船と買積み
5 「客船帳」にみえる取引
6 胡屋・江戸屋と讃岐の廻船
7 長栄丸の取引
8 太神丸の取引
六 高松城と松平頼重(講演記録)
1 『香川県史』の編纂
2 生駒藩と高松城
生駒親正/高松城を築く/関ヶ原合戦と大坂の陣/幕府隠密の讃岐探索/西島八兵衛と高松城/生駒騒動
3 松平頼重の政治
松平頼重/城下上水道と溜池/高松城石垣の修築と検地
4 高松城の完成
天守閣の再築と「高松城下図屏風」/高松城普請に着手/家臣知行米の「四つ成」
5 高松城と現在
七 香川県地方史研究の現状・総論と近世
1 総論
2 近世
藩政/農村/騒動/産業/海事/金毘羅/人物
八 幕末の百姓騒動
1 騒動の特徴
2 丸亀藩領大麻村の騒動
3 高松藩領松原村の騒動
4 小豆島西部六郷百姓一揆
九 讃岐地域の歴史的個性
1 瀬戸内海と讃岐
2 讃岐の産業
3 讃岐の支配者
4 水争いと百姓騒動
5 讃岐の分県・独立
6 民衆文化と金毘羅大芝居
十 近世讃岐地域の生業と社会
1 諸藩の成立
生駒藩/生駒騒動/丸亀藩/高松藩/幕府領・朱印地
2 高松・丸亀城下町
生駒時代の高松城下町/城下町の整備/高松城天守閣/高松町屋/丸亀城下町/福島・新堀湛甫
3 向山周慶と砂糖
製糖法/向山周慶/高松藩の統制/「加島屋掛込」/砂糖為替金趣法/砂糖の生産状況
4 久米栄左衛門と坂出大浜
近世前期の塩田/屋島亥浜/久米栄左衛門の献策/坂出大浜/塩田王国香川
5 塩飽海運と漁場争い
塩飽/小豆島・直島/西廻り/塩飽城米船/太神丸/入漁争い/大曽ノ瀬と金手の阻
6 金毘羅と門前町
松尾寺/金毘羅大権現/朱印地/金毘羅門前町/白鳥宮門前町/仏生山門前町
7 満濃池と水争い
溜池/西島八兵衛/「満濃普請」/剱ヶ端/芦脇井関/平井出水
8 西讃大一揆と百姓騒動
小豆島越訴/西讃大一揆/嘆願書/一揆の結末/村方騒動
9 大野原開発と木綿作り
松島・潟元干拓/平田与一左衛門/井関池/大野原と平田家/西讃の綿/丸亀藩の統制/綛糸趣法
十一 高松藩製糖業に尽くした人たち
1 砂糖生産のはじまり
松平頼恭/池田玄丈/吉原半蔵/向山周慶/関良助
2 砂糖製造の発展
百姓礒五郎/河野忠六/朔玄/玉井三郎右衛門/新兵衛/久米栄左衛門
3 砂糖為替金趣法の実施
日下儀左衛門・松原新平・北村佐七郎/筧速水/砂糖会所引請人
十二 山崎家時代の丸亀藩
1 丸亀城の再築
2 「讃岐国内五万石領之小物成」
3 大野原と福田原の開発
4 井関村の農民構成
十三 丸亀藩・多度津藩と藩政の展開
1 藩政の推移と流通の統制
丸亀藩の財政と藩札・御用銀/寛延百姓騒動/綿の流通統制と木綿の大坂取引/砂糖車運上と砂糖代金の引替/多度津藩の藩札と大坂から江戸藩邸への送金/献上金と藩財政/砂糖の流通
2 丸亀藩の安政改革と多度津藩の陣屋
丸亀藩文政八年の改革/「田面改め」と年貢取立肝煎庄屋/安政の御用米・銀と家中借増米/「封札」の実施/「綛糸仕組」と木綿屋株/砂糖大坂積登趣法/『西讃府志』の編さん/多度津陣屋の建設/文政九年の倹約令と多度津湛甫/天保十年の藩財政と御用銀
3 幕末の軍事的動向
丸亀藩台場の築造/藩主の京都警衛と集義隊/「軍用人足」と固場所/多度津藩「西洋流炮術見聞録」と瀬丸池の大砲試射/農兵隊の結成と小銃の買い入れ
Ⅱ部 余 録
一 高松藩の砂糖
1 砂糖為替金
2 砂糖会所座本と砂糖問屋
3 船中為替と別段為替
二 高松藩の概観
1 高松藩の成立
2 財政難克服と殖産奨励
3 財政改革と砂糖統制
4 幕末の動向
三 わが藩の名物男たち・高松藩
1 発明の才で塩田開発・久米栄左衛門
2 草莽志士の武装東上計画・小橋安蔵
3 藩随一の文人派名家老・木村黙老
四 高松藩国産統制
1 国産奨励と享和新法
2 砂糖会所と大坂商人
3 砂糖為替金趣法
4 在地主導の国産統制
五 高松城下町
1 高松城築城と城下町の形成
2 城下町の発展
3 城下の有力商人と新湊町の築造
六 高松藩―歴代藩主でたどる藩政史―
1 高松城の完成
2 殖産奨励と財政改革
3 天保改革と文教政策
七 高松藩博物学と栗林薬園
1 藩主松平頼恭
2 薬草調査
3 池田玄丈
4 平賀源内
5 梅木原薬園
6 池田家の役割
八 須恵器と理兵衛焼
1 『延喜式』
2 陶窯跡群
3 宗吉瓦窯跡
4 紀太理兵衛
5 古理兵衛
6 高松藩の窯
九 歴史書・地誌の編纂
1 近世前期
2 近世中期
3 高松藩の歴史編纂
4 近世後期
5 『讃岐国名勝図会』と『西讃府志』
十 近世ため池水利古文書の解説
満濃池史料/木之郷村双子池池成出入覚書/岡田上村分木書付/和田村長谷池水溜に付取遣覚書/香東川芦脇井関一件願留/旱魃に付生野村二頭水取一件/満濃池覚帳/東高篠村羽間池水論一件願出留/岡田上村打越下池水論に付諸入目割賦願出一件記/池普請見積其他心得書/朝倉村屋古戸井関裁判記録
十一 多度津藩羽方村庄屋森家の華道
1 森武右衛門と「入門誓盟状」
2 花伝書「葦芽」
3 森家と梅下堂
十二 高松藩における文化遺産の保存(講演要旨)
1 古城跡等の保存と「細川将軍戦跡碑」
2 藩主松平頼恕の文化遺産保存
十三 久米通賢と高松藩の砂糖作り
1 高松藩と砂糖
2 久米通賢と砂糖生産
3 久米通賢の建白書
4 砂糖統制と久米通賢
十四 白峯寺の文化的意義
1 白峯寺と崇徳院
2 白峯寺と高松藩
3 崇徳院回忌と白峯寺の財政
4 白峯寺と遍路
5 白峯寺の文化遺産
建築物/石造物/美術・工芸/聖教
6 白峯寺の文化的、歴史的重要性
十五 香川歴史学会創立六〇周年に思う
1 香川歴史学会の改組と『香川史学』の創刊
2 地域史の史料調査
3 香川歴史学会の運営
4 香川歴史学会と『香川県史』の編さん
5 地方史研究協議会の高松大会
6 四国地域史研究連絡協議会の結成
十六 香川地域史研究の発展をめざして
1 『香川県史』の編さん
2 香川県立文書館と香川県歴史博物館
3 香川地域史研究の進展
十七 生駒騒動
1 「生駒踊り」の信憑性
2 前藩主の急逝と幼少藩主
3 国元と江戸の分離
4 幕府の裁決と顛末
十八 海運と讃岐の廻船
1 瀬戸内と西廻り
2 塩飽の廻船
3 『諸国御客船帳』と讃岐の廻船
十九 遍路日記と煩い・病死遍路
1 讃岐の遍路日記
2 紀伊学文路の遍路日記
3 煩い・病死遍路の扱い
4 遍路と「村入目」
二十 高松藩の五街道(講演要旨)
1 高松城下町と五街道
2 仏生山街道
3 金毘羅街道
【著者紹介】
〔著者〕
木原 溥幸