牡丹餅
ISBN:9784863871076、本体価格:800円
日本図書コード分類:C0093(一般/単行本/文学/日本文学小説)
108頁、寸法:148×210×6mm、重量171g
発刊:2019/10
【おわりに】
混乱を招くかもしれないので説明する。本小説に出てくる主人公の「私」とは筆者の母であり、「私の父」とは、筆者が出会ったこともない祖父である。「おわりに」では、筆者のことを「私」と呼ぶことにする。
私が本小説の2章と3章に書かれている内容を母から聞いたのは、つい最近になってのことである。つまり1章と4章はフィックション(創作)だが、それ以外はほぼノンフィックション(真実)と言っていい。私は幼い頃から、母から色々な話を聞かされて育った。特に今でも脳裏に焼き付いている話は、母と添え寝しながら聞いた「安寿と厨子王」である。布団の中で涙を流したことを覚えている。だから今回も、この話を母から聞いた時、人々に深い感動を与えようと誰かによって作られた話だと思っていた。しかし、母が実際に体験した話と聞いて、私は強い衝撃を受けた。まさに驚天動地であった。
さて、「昭和」「平成」「令和」へと時代が過ぎるに従って、太平洋戦争の体験者は次第に減少している。母の幼少期には、日清・日露戦争の体験者もいたはずだった。でも今や、そのような戦争の体験者は日本中どこを探してもいない。国民全員が戦後生まれとなる日も、そんなに遠い将来ではないだろう。母は戦後70年以上が過ぎて、この話を私や回りの人たちに話し始めた。母は、語り部として、太平洋戦争の体験談を人々に伝えなければならないという使命感に燃えてきたのだろう。しかし、江戸時代の良寛和尚の辞世の句を引用させていただくと、「散る桜、残る桜も、散る桜」。人の命には限りがある。語り部から伝えられてきた話もそのうちに消え去るかもしれない。そこで私は母の貴重な体験談を風化させないためにも、この話を小説として残そうと強く決心した。文章として残すことができれば、これからもきっと多くの人々に受け継がれるに違いないと思ったからだ。このような強い決意が私に小説の執筆を促したようだ。
それと誤解を招くといけないので釈明すると、3章の終わりに出てくる将校は、決して軍神のように人々から崇め奉られることを願って執筆したのではない。軍人も人の子である。幼かった母に慈悲の心で接し、一人の人間として行動されたその配慮に敬意を表したい。それと、1章と4章に登場する「美月」とは私の初孫であり、美月の父とは私の一人息子である。あえてこの二人を登場させた背景には、母と祖父が体験した戦争の悲惨な記憶を、二人には絶対に体験させたくないという強い願いからである。
最後に、母からこの実話を聞いた数ヶ月後に、私の母は母の父、つまり私の祖父の元に向けて旅立った。きっと天国では、父と娘が仲良くお大師さんの境内で駆けっこをしていることだろう。母の命日は、令和元年6月16日である。この月日は略して「66」となる。まったくの偶然かもしれないが、この数字は四国霊場第66番札所「雲辺寺」と同じである。古刹雲辺寺の標高は911メートル。母は四国霊場札所最高峰に位置する雲辺寺より、下界にいる私たちの生き末を見守ってくださっているのに違いない。
母の冥福を心より祈りたい。 合掌
令和元年8月15日台風10号が吹き荒れる讃岐豊浜にて
※8月15日は太平洋戦争の終戦記念日と同時に、奇しくも母の誕生日である。
【もくじ】
一 大きいばあちゃん
二 父と「あんこ」
三 大日峠
四 五重大塔
おわりに
【著者紹介】
〔著者〕
合田 芳弘
〔イラスト〕
石川 彰三
篠原 五良
【内容紹介】
小学生も読むことができるように総ルビで執筆されています。