生涯にわたって学び続ける生徒の育成 実感・自己理解としての「語り」が生まれる情意へのアプローチ
ISBN:9784863871939、本体価格:1,500円
日本図書コード分類:C3037(専門/単行本/社会科学/教育)
282頁、寸法:210×282×14mm、重量690g
発刊:2024/06

生涯にわたって学び続ける生徒の育成 実感・自己理解としての「語り」が生まれる情意へのアプローチ

【まえがき】
初夏の季節が訪れ、緑豊かな風景が目に映える6月です。本日はご多用の中、本校の教育研究発表会にお越しいただき、心より御礼申し上げます。
前回・前々回の教育研究発表会は、コロナウイルスの影響で遠隔での開催となりました。そのため、対面での開催は実に6年ぶりとなります。この間も、本校では流れを止めることなく、着実に教育実践及び研究を進めてまいりました。
近年、様々なところで、「ものがたり」(ストーリー、ナラティヴ、語る・語り)の重要性が話題となっています。「ものがたり」という言葉を聞くと、根拠のない「夢物語」を想像される方もいらっしゃるかもしれません。しかし、変化の激しい現代社会、そして近未来での社会では、かつて「夢物語」と思われていたことが現実のものとなっていきます。例えば、今から30年前に、子どもからお年寄りに至る人々がスマートフォンを使って会話、情報検索、買い物、予約、金融などを自在に行えるようになることを想像していた人がどれほどいたでしょうか。経済界・産業界では、新たな商品の開発やイノベーションの喚起、人工知能(AI)の進化には、「ものがたり」が必要不可欠な要素となっています。そして何よりも、「ものがたり」をつむぐ力は、予測不可能な社会に生きる私たち人間にとって、「生きる力」を生み出す源泉となります。
本校では、長年にわたって「ものがたり」に着目し、ナラティヴ・アプローチにもとづく授業づくりに取り組んでまいりました。「ものがたり」の授業は、個々の学習者が主体として「ものがたり」をつむぎ、それぞれの「ものがたり」の可能性を仲間とともに広げていくものです。その根底には、「ものがたり」の授業に取り組む教師たちの専門性はもちろんのこと、成長する主体としての子どもたちへの深い愛情と信頼があります。
本年度の研究テーマは、<生涯にわたって学び続ける生徒の育成―実感・自己理解としての「語り」が生まれる情意へのアプローチ―>です。人の在り方・生き方は、その時々の選択・判断・意思決定の積み重ねであり、単線的な「ものがたり」に見えても、そこには可能性に開かれた複線的な「ものがたり」が潜んでいます。生涯にわたって学び続けることで、新たな「ものがたり」がつむがれていきます。各教科、「共創型探究学習CAN」、「語り合いの時間」において、「ものがたり」のもつ力を活かし、生涯にわたって学び続ける意欲が湧き出た「熱中・没頭する学びの場」を現出できれば幸いです。
本日ご講演いただきます、慶応大学教職課程センター教授、鹿毛雅治先生におかれましては、ご多忙な中にもかかわらず、快くご講演をお引き受けいただきました。この場を借りまして厚く御礼申し上げます。
最後になりましたが、本教育研究発表会の開催にあたり、多大なご支援を賜りました、香川県教育委員会、坂出市教育委員会、宇多津町教育委員会、綾川町教育委員会、香川県中学校長会、綾歌郡中学校長会、香川県中学校教育研究会、香川県中学校教育研究会坂出・綾歌支部、ならびに関係各位に厚く御礼申し上げます。
令和6年6月7日 香川大学教育学部附属坂出中学校 校長 鈴木 正行

【あとがき】
テーマや条件を指示するだけで、自然な文章や物語、絵画等を作成してくれる生成AIの登場に、私たち教育関係者は、少なからず衝撃を受けました。膨大なデータを学習しているAIに対し、人間にしかできないこと、人間だからこそできることは何か?
今、改めて、知識とは何か?授業とは何か?学校とは何か?学ぶとは?生きるとは?……等が問われているのではないかと思います。

「教育」という言葉で私たちが通常イメージするのは、学校や教室という場所で、1時間目から6時間目という時間的な限定のもと、教える側の教師が教えられる側の子どもに、主として教科内容を教えていく、というものではないかと思います。しかし、平成22年度から開発を始めた共創型探究学習CANにおいて、私たちは、子どもたちの学びに没頭する姿、生き生きとした自己の探究の語り、3年間を通して大きく成長する姿、を見てきました。では、CANでは、いつどこで誰が何を教えたのかを考えると、探究の過程全ての時間において、校内外における様々な場所で、教師、先輩、地域の人々等それぞれが教え役になり学び役になり、教科の知識だけでなく、対人関係の難しさ、粘り強く取り組む姿勢、苦難に立ち向かう意味など、多様な教育環境の中で時を選ばず場所を選ばず、子どもたちは学んでいたことが分かります。こうした子どもたちの姿を、教科の学習でも……という思いから、特に子どもの情意面に着目し、学習環境も含めて、教師がどうかかわることが、子どもたちの豊かな自己の学びの物語を紡ぐことにつながるのかを追究したのが、本研究になります。
他者との多様な出会いの中で、自己の意味世界を広げていく経験を積み重ねることで、生涯にわたって学び続ける生徒を育てる。不登校の子どもが約30万人と言われる中、本来は分離され得ないはずの「学ぶことと生きること」について問い直す、「ものがたり」としての学びのカリキュラムについて提案させていただきます。もちろん、未熟な私たちが、どれだけ子どもたちの自己物語の生成に伴走できたか、また子どもたちは真に「学び続ける」の姿であったのか等、今後の研究の発展に向けて厳しくご批判いただければ幸いです。
また研究授業の公開だけでなく、シンポジウムでは、授業づくりにおける教師の葛藤やもがきの姿を、授業後討議会のビデオ公開では、子どもを見取る鑑識眼を高め合う教師の学び合う姿を公開させていただきます。教師の大量退職、大量採用の今、教師力をいかに向上させるかが課題とされていることから、あえて「授業づくりの裏側」を公開させていただきました。参観の皆様のご参考となれば幸甚です。
慶應義塾大学教職課程センターの鹿毛雅治先生には、研究の過程で、多くのご示唆をいただきました。本日も、シンポジウム・講演にて、「授業づくりを語る~子どもとともに主体的な学びの場を創る~」と題してお話をいただきます。今後の授業づくりに向けて多くの気づきが得られると期待しております。
最後になりましたが、本研究を進めるにあたり、ご指導・ご助言をいただきました関係各位、機関の先生方に心より感謝の意を表したいと存じます。
令和6年6月7日  副校長 川田 英之

【目次】
●まえがき
●総論
 研究主題
  Ⅰ 研究主題について
  Ⅱ 今期の研究の視点
   1 研究の目的
   2 研究構想図
   3 研究の内容
   (1)「ものがたりの授業」づくり
   (2)「共創型探究学習CAN・シャトル」の取り組み
   (3)「語り合いの時間」および特別活動における取り組み
   (4)生徒の学びを見取る教師集団となるために
  Ⅲ 主な成果と今後の研究の方向性
●各教科及び学校保健 提案・指導案
 国語 言語による認識の力をつけ、豊かな言語文化を育む国語教室の創造 -「遊び」のなかで言葉や読み方を捉え直す国語科授業の在り方-
 社会 これからの社会のあり方を自ら考える民主社会の形成者の育成をめざした社会科学習 -本質的な問いについて、互いの「社会観」を語り合うことを通して「社会的自己」を捉え直す-
 数学 疑問や気づきを自ら生み出す生徒の育成 -数学をつないで語ることで生まれる「ものがたり」を通して-
 理科 進んで自然と関わり、見通しをもって探究する生徒の育成 -科学する共同体の中でつむがれる「ものがたり」を通して-
 音楽 音や音楽に意味を見出し、音楽との関わりを深める学習のあり方 -音楽観の捉え直しや変容からつむがれる「ものがたり」を通して-
 美術 感性を働かせ、自分にとっての美を更新する創造活動 -自己や周囲との関わりを通して変容する感性に気づく授業づくりをめざして-
 保健体育 健康やスポーツの価値を実感する保健体育学習のあり方 -自分の「からだ」を土台として健康やスポーツと関わることで生まれる「ものがたり」を通して-
 技術・家庭 生活を見つめ、持続可能な未来へつながる実践力を育む 技術・家庭科教育 -生活を語り合い、問題解決を実践することで生まれる「ものがたり」を通して-
 外国語 コミュニケーションの喜びを実感する英語授業の創造 -自分の考えや気持ちを伝えるための試行錯誤を通して-
 学校保健 「チーム学校」として取り組む教育相談 -羅生門的アプローチを援用した教育相談体制と継続的な支援-
●「共創型探究学習CAN・シャトル」・「語り合いの時間」
●シンポジウム
 演題 授業づくりを語る ~子どもとともに主体的な学びの場を創る~ 講師 慶應義塾大学教職課程センター 教授 鹿毛雅治
●あとがき

【著者紹介】
〔監修者〕
香川大学教育学部附属坂出中学校
〔編集者〕
大西 正芳
島根 雅史
逸見 翔大
松添 啓子
加部 昌凡
髙木 千夏
廣石 真奈美
井上 真衣
山﨑 大
宮崎 浩行