近想遠望IV「我以外皆我師」-ある脳外科医の自然と人間の絆-
ISBN:9784863871953、本体価格:1,500円
日本図書コード分類:C0023(一般/単行本/歴史地理/伝記)
71頁、寸法:148.5×210×6mm、重量156g
発刊:2024/07
【はじめに】
82歳になり、同輩たちが次第に去ってゆく年頃を迎え、無性に子供の頃からの様々な記憶が蘇ってきました。
人は生活環境、社会経験と関与した人々によって育てられるといいます。今ある自分も、過去の記憶や経験、そして努力して獲得した能力の中で生きてきたのであって、これからお迎えが来るまでその生きざまは変わらないと思います。
医療を志し脳神経外科の分野で、岡山大学、香川医科大学(現香川大学医学部)、JA香川厚生連、香川大学の運営、そして30代には米国シカゴの病院に勤務し、今思うと比較的に少ない楽しい幸せな時間以外は、苦労、挫折、悔悟の時間だったと思います。しかし苦労や苦しみが強いだけ、それを突破できた時の喜びは数倍大きく、力と勇気を与えてくれるとも考えられます。
多くの苦難を振り返り、苦しかったがやりがいや、ちょっぴり幸せをかみ締めた人生を過ごさせていただいたと、つくづく家族をはじめ絆に結ばれた諸氏・関係者のご助力に頭を垂れるのです。
作家 吉川英治氏の座右の銘は「会う人、出会うもの、すべてわが師なり」です。自分以外の人、ものや事象が全て自分に足らざるものを教えてくれる、その様な謙虚な心持で生活することで、人は良く磨かれていくと説いています。著書「宮本武蔵」の中でも「我以外皆我師也」と書かれています。
私の人生を振り返っても、挫折や窮地に陥った時に、皆さんに適切なアドバイスやご助力をいただき、数えきれないほど私の進む指針を示されました。むしろその連続の人生であったと今更ながら、生かされた時間であったと思うのです。生きてきた間の様々な自然の出来事や私に勇気を与えていただいた方々からの多様な気づきについて述べてみたいと思います。
【おわりに】
私の生涯を振り返り、偉大な自然の生命力、先人のご指導から大きな影響を頂いて、今自分があることを今更ながら思い至りました。考えてみるに、人々は皆そうやって先輩から後輩へと一生の時間をやりくりしているのです。
私は10回の四国遍路旅を歩むことで、長年汗水を流した医療の世界しか知らなかったことを思い知らされました。
医療の道を志して、その内の脳神経外科という専門科で一生の大部分を過ごした私にとっては、現在の世界情勢の変化に対しては全く無力です。ただ私が子供の頃に過ごした終戦後の貧しい空腹の生活は、子供や孫の時代に味わわせたくないのです。
その心持ちは変わらず年齢も顧みず、11回目の旅に出て寺々を打っています。どうぞより良い世界を与えてくださいと……。
自分の生きてきた時間をさらし、後輩達が何かを感じ取り、将来への考え方やより良い世界を築く礎になってくれればとの思いで記してきました。
ただ光明は見えてきています。昔では考えられなかった世代が、個々の得意の分野で自己研鑽し、日本から世界中に出かけて行って、素晴らしい評価を得ている現実をみると、太平洋上空で見た燦然と輝く太陽のように思えてくるのです。
今、大人は若者の決意に負けています。社会のあらゆる潜在力を統合し、新たな日本のあるべき将来の姿・夢を現実のものにしていただきたいと念じるばかりです。
俳聖松尾芭蕉は死の4日前に、「旅に病んで夢は枯れ野をかけ廻る」と詠んでいます。この「夢」は過去の出来事ではなく、これからこうしようという将来に託す能動的な「夢」と私は理解しています。孤独な絶望の時にも夢を見続ける偉大な人であったと信じています。自分もその様な人であり続けたいと願っています。
向後何回も桜花を愛でて、秋の金木犀の香りに癒される日々を迎えたいと願う日々です。
【目次】
はじめに
第1章 大自然は人を育てる
第2章 花への愛情は心に慈愛を育む
第3章 動物愛で命を見つめる
第4章 小中高校・大学生時代のほろ苦い思い出
第5章 私に気付きを与えていただいた大先輩の方々
1.川村 隆氏
2.福武總一郎氏・北川フラム氏
3.末松 安晴氏
4.ジュリアン・ホフ ミシガン大学教授
第6章 患者さんはお師匠さんです
第7章 若い時に海外留学を勧めます
第8章 臨床の現場を振り返り今思う事と後輩へのアドバイス
第9章 医師の働き方改革と少しの変革の提言
第10章 全く医療を離れ、心を「空」にする時間も必要です そして再び「死」について
第11章 高齢者になって見えてきた事
第12章 四国遍路旅に想うこと
第13章 未だ心に残る忘れえぬ風景
おわりに
あとがき・謝辞
【著者紹介】
〔著者〕
長尾 省吾