戦争と家族 語り伝えて
ISBN:9784863872097、本体価格:300円
日本図書コード分類:C0023(一般/単行本/歴史地理/伝記)
42頁、寸法:148.5×210×3mm、重量74g
発刊:2025/06
【はじめに】
2012年12月、第二次安倍政権が発足して1年半あまり。
この間この国は、安倍晋三という一人のおろかな極右政治家の妄想によって、現実をしだいに戦争モードに引きずり込んでいきつつある。
国会での安定多数の議席を背景に、日本が米国と一体となって、地球上のどこででも戦争に参加できるようにするための悪法を次々と成立させている。
あとは、「集団的自衛権の行使容認」に踏み切ることによって、憲法第9条を空文化させるための手続きを残すのみになっている。この壁が崩れたら、まがりなりにも戦後70年間続いてきた「非戦国家」日本は、音を立てて崩れることになるだろう。いや、すでに私たちは新たなる戦前・戦中を歩まされているのかもしれない。気が付いた時には、すでに手遅れなのだから。
70年前、アジア太平洋戦争によって犠牲となった、アジアの人びとのいのち、およそ2000万人、日本国内の人びとのいのち、およそ300万人。その人たちの流した血の中から生まれた崇高な平和憲法。いま、それが息も絶え絶えになっているさまを、誰一人として止めることはできないのだろうか。羽交い絞めされたまま、目の前の不条理を見過ごすような苛立たしさを覚える。
20年足らず、<反戦・平和>をテーマとして活動を続けてきた市民グループとして、いま、何をしなければいけないのか。いま、何ができるのか。その煩悶の中から生まれたのが、このたびの冊子『語り伝えて』の発行である。
1989年にお二人の戦争体験者にインタビューしたものをもとに、若干の加筆訂正をした。お二人のうち、稲たつ子さんは2005年7月4日、奇しくも高松空襲のあった同じ日に、あの世へと旅立たれた。亨年89歳。まるで空襲犠牲者に招じられるかのごとき静かな旅立ちであった。もうおひとりの吉田孝子さんは現在79歳。病身にありながら、渾身の力を振り絞って反戦・脱原発等の活動に立たれている。吉田さんはおそらく、戦争体験を子どもの目を通して語ることのできる最後の世代であろうと思われる。
この冊子が一人でも多くの人に、とりわけゲームやアニメの中で「戦争」を知った若い人たちに読まれて欲しいと思う。戦争は決して他人事ではないし、この国に住む誰一人としてその桎梏から逃れることはできない。そして、何より大切なのは、『戦争は誰かが起こすものではない、君が起こすのだ』(羽仁五郎)ということ。
この冊子を契機として、未知の読者と共に語り合えたらと切に願っている。
2014年7月4日 「歴史は消せない!」みんなの会 世話人 矢代富子
【あとがき】
この冊子は11年前、2014年7月に、「歴史は消せない!」みんなの会から発行されたものである。「はじめに」にあるように、引き上げ経験を語られた(母)稲 タツ子さんは2005年7月4日に逝去された。
2023年秋、(娘)稲(旧姓 吉田)孝子さんが病気になられ、20年前イラク戦争当時、「歴史は消せない!」みんなの会の会報に書かれたいくつかの文章がそのままになっていることを残念に思われていることを知り、冊子として残すことを計画した。2024年4月、「ここはお国を何百里」、2025年1月、「鉛色の太陽」が発行された。3冊目の「疎開児の夏」は現在、稲 孝子さんのご希望により、訂正、加筆中である。
稲 孝子さんは、この夏、90歳になられ、ご自分の戦争体験を次世代に伝えたいと強く希望されるようになっておられる。
11年前、「はじめに」に「現実をしだいに戦争モードに引きずり込んでいきつつある」と会の世話人、矢代富子が書いているが、現在、それはロシア-ウクライナ戦争、ガザの虐殺の進行の中、より緊迫したものになりつつある。この冊子を再刊し、4部作にすることには現在的な意義があると考えたい。
2025年6月30日 「歴史は消せない!」みんなの会 編集、事務担当 橋本恭子
【著者紹介】
〔著者〕
稲 孝子
〔編集者〕
橋本 恭子