あなたは知っていますか蘭学者たちの苦労を-日本近代化の礎
ISBN:9784863872103、本体価格:1,500円
日本図書コード分類:C1080(教養/単行本/語学/語学総記)
137頁、寸法:148.5×210×7mm、重量194g
発刊:2025/10

あなたは知っていますか蘭学者たちの苦労を-日本近代化の礎

【はじめに】
私たちは「酸素」や「水素」ということばをふつうに使っていますが、もとからあった日本語ではありません。江戸後期の蘭学者がオランダ語を翻訳してつくったことばなのです。その蘭学者は、岡山津山藩の江戸詰の藩医、宇田川榕菴(うだがわようあん)です。医師であった榕菴は薬学や植物学の研究から化学の研究を深め、「酸化」や「還元」をはじめ数多くの化学訳語をつくりました。
また、津山生まれで津山藩医となった箕作阮甫(みつくりげんぽ)は、ペリー来航の際に大統領の手紙を翻訳したり、ロシア使節プチャーチン来航の時にも外交文書の翻訳や交渉をしたりしたほか、生涯に160冊もの和訳書をつくっています。
宇田川家の玄随、玄真、榕菴、そして彼らの子孫たち、また阮甫の子孫たちも外交文書の翻訳や外交交渉などに従事し、日本の発展に大きく貢献しました。
江戸から明治期にかけて多くの蘭学者・洋学者が行った西洋語の翻訳というきわめて文化的・創造的な作業は、日本語の充実、学問・教育の発展の礎となっています。
一方、今の日本は外来語にあふれ、その多くは、世界で広く使われている英語をそのままカタカナにしたことばです。翻訳せず外国語をそのまま使う傾向にありますが、私たちも蘭学者・洋学者たちの持っていた情熱を忘れてはいけないと思うのです。
だからこそ、もう一度蘭学者・洋学者たちの思いにふれ、その精神を学ぼうとする「洋学再考」を願った次第です。
広く外国の人々からも日本に関心をもってくれている今こそ、日本の近代化に大きく寄与した西洋との出合いからの蘭学・洋学の発展の歴史を世界の人々に発信していくことが求められています。
そのため、本書では紹介に必要な英語表現を併記することにしました。

【あとがき】
私の父(2代目塩田勝治郎)は幼いときに父親(初代塩田勝治郎)と死に別れました。それが大きく関係していると思われますが、初代勝治郎に関する新聞記事や丸亀市が発行した冊子や写真を大切に残してくれていました。このたびそれらの資料に目を通しながら父の父親への思いがどれほど強かったのかを感じながら、祖父の生きた証を本書の第6章に載せることができました。
私は子どものころより父から時折祖父の事業家としての活動について、なにより鶏鳴学館設立とその発展への情熱を感じる話を聞いて育ちました。座敷の鴨居には祖父の写真が掛けられており、物心つくころから父から聞いた話を思いつつ見上げたものでした。父にとっては自慢の父親だったはずです。そんなことを思いながら、本書をまとめる作業が続きました。
そして、祖父の受けた教育を遡れば福沢諭吉に至るということがわかったことで、慶応義塾に学んだ私にとって、一度も会うことのなかった祖父とのつながりを感じることができました。
なんとか本書を形にすることができたことを亡き父に報告し、喜んでもらいたいと思います。

【目次】
第1章 西洋語との出合い
 1. ポルトガル語
 2. スペイン語
 3. オランダ語
 4. 英語
 5. フランス語
 6. ドイツ語
 7. ロシア語
第2章 西洋との接触
 1. 南蛮船の渡来
 2. ザビエルの来日
 3. コレヒオとセミナリヨ
 4. ルイス・フロイス
 5. ポルトガルとの交易
 6. 天正少年遣欧使節
 7. 秀吉のバテレン追放令
 8. ウイリアム・アダムス
 9. オランダ商館
10. 禁教令
11. 慶長遣欧使節
12. イギリス商館の閉鎖
13. 海外渡航禁止令
14. 出島を築造し、ポルトガル人の居住地に
15. 鎖国の完成
16. オランダ商館の出島移転
17. 宗教以外の洋書輸入緩和 西洋学問の導入
18. 『解体新書』刊行
19. ラクスマンが大黒屋光太夫を伴って根室に来航
20. ドウーフ来日
21. ロシア使節レザノフが長崎に来航、通商を要求
22. イギリス軍艦フェートン号長崎港に不法侵入
23. シーボルトがオランダ商館医として来日
24. 幕府異国船打ち払い令を発布
25. シーボルト事件
26. 蛮社の獄
27. ジョン万次郎米国へ
28. 異国船打ち払い令解除
29. アメリカ捕鯨船マンハッタン号 漂流民を乗せて浦賀に来航
30. ペリー来航
31. ロシア使節プチャーチンが長崎に来航
32. 日米和親条約締結
33. 海軍伝習所設立
34. 蕃書調所設立
35. ハリス来日
36. 神奈川・長崎・箱館の3港を開港
37. ヘボンが来日し、『和英語林集成』を完成
38. 遣米使節団・咸臨丸米国へ
39. 幕府初の海外留学生オランダに派遣
40. 生麦事件勃発
41. 岩倉使節団
42. お雇い外国人雇用
43. クラーク博士来日
第3章 西洋科学との出合い
 1. 化学
 2. 本草学、博物学
 3. 気象学
 4. 物理学
 5. 天文学
 6. 天文学、物理学の発展(ヨーロッパの自然科学)
 7. 天体望遠鏡の発達
 8. 日本での天体望遠鏡開発
第4章 西洋医学との出合い
 1. 山脇東洋
 2. 『解体新書』
 3. シーボルト
 4. 二宮敬作
 5. イネ
 6. 緒方洪庵
 7. 華岡青洲
第5章 蘭学から英学・洋学へ
 1. オランダ通詞
 2. 活躍したオランダ通詞・蘭学者たち
 3. オランダ通詞の語学学習
 4. オランダ語とはどんな言語
 5. オランダ語から英語へ
 6. フランス語の学習
 7. ロシア語の学習
 8. 英学の100年
 9. 幕末留学生
10. 岩倉使節団
11. 明治のお雇い外国人
12. 日本を世界に紹介した人物
第6章 福澤諭吉の英学
 1. 福澤諭吉
 2. 慶應義塾
 3. 済々学館
 4. 塩田勝治郎
 5. 鶏鳴学館
第7章 津山の洋学
 1. 宇田川三代
 2. 箕作阮甫とその一族
付録
 1. 歴史用語和解(わげ)
 2. 科学用語和解(わげ)
参考・引用文献

【著者紹介】
〔著者〕
塩田 寛幸
片山 敏彦