眠られぬ教師のための社会科授業づくりのメソッド
ISBN:9784863871410、本体価格:1,350円
日本図書コード分類:C1037(教養/単行本/社会科学/教育)
120頁、寸法:148.5×210×7mm、重量196g
発刊:2020/09

眠られぬ教師のための社会科授業づくりのメソッド

【はじめに】
 コロナ禍で,大学授業がオンデマンドとなりました。そこで,一読して分かる授業資料づくりに追われることになりました。この作業を,文字通り月月火水木金金体制で,必死でやり続けています。この授業資料を構成し直し,加筆修正して本書をまとめようと思いました。本書は教職志望者や教員になって間もない方を対象に,社会科授業づくりに必要なことをカバーすることに心がけました。ところどころに問いかけがあり,直後にはこたえはありません。読み進めることで,問のこたえが出てきて,分かってきます。あきらめず読み進めてください。大丈夫です。読みやすいものにしたつもりですから。また,大切なことは繰り返し学ぶことが一番です。切口を変えながら,同じことを繰り返している箇所が幾つかあります。そんな時,既習したことが忘れかかっていたら,面倒くさがらずに,以前学んだ箇所を再読してください。理解が増すはずです。
 私は,初任時に図工で研究授業をしました。小学校3年生に柿の木を描かせました。研究授業までに様々な図工関係の書物にあたり試行錯誤を繰り返しました。しかし,しっくりときません。眠られない日が暫く続きました。研究授業日1週間前になり,やっと私なりに納得できる上野省策(1981)『美術の授業-すべてのこどもが生きる美術の指導-』国土社,にめぐり会いました。子ども達に柿の木や葉っぱを触らせながら描かせることに辿り着き,どうにか研究授業を終えることができました。本書は,社会科が専門でない方や,社会科が苦手な方も視野に入れています。専門でもない社会科の研究授業をすることになって悶々としている方に,一条の光を投げかけるとまではいきませんが,マッチの光ぐらいにはなるようにと努めました。
 暫く続くベテラン教員の大量退職と若い教員の増加で,「社会科らしい社会科授業」の実現が求められています。ベテラン教員の実践知を如何に継承発展させ,若い教員が力量形成を図るかも喫緊の課題です。それ故か,ここ最近,ハウツーに関わる本が数多く刊行されている気がします。小中の教職を経験した実践者の視点と大学に籍を置く研究者の視点から類書にない味付けをして,本書をまとめるように努めています。類書が多く出回る中,屋上屋を架す愚は犯さないように心がけたいと思いました。
 小学校2年生の子が,3年生から始まる社会科を早く学びたいと思っているという文章を読んだことがあります。しかしながら,教職志望学生の「社会科教育の原風景」は惨憺たるものだと思います。多くの者は,社会科は○○を覚える好きではない教科というイメージを持ち,社会科を学ぶ「意味」は失われているのではないかと思えるほどです。
 「憧れ」は童の心と書きます。子どもがひとなり大人となると,「憧れ」も人の夢と書く「儚いもの」になるのでしょうか。社会科に初めて出会った時の「憧れ」を,子どもが持ち続けることに,社会科が「儚いもの」にならないために,少しでも手助けできれば,筆者として望外の喜びです。

【あとがき-「道は続くよ,どこまでも」-】
 授業者になって久しいですが,どこまでやっても満足する授業になりません。満足する授業が出来たと思ったとたん,進歩は止まるのでしょう。授業づくりに終わりはありません。授業者の「道は続くよ,どこまでも」です。
 さて,板書とノートは密接な関係にあり,ノート指導にもふれたかったです。そもそも,どのように授業づくりに関わる力をつけていくかについても述べたいと思いました。まだまだ書きたいことはありますが,紙幅の関係で割愛しました。拙著『学ぶよろこびに迫る 社会科授業づくりと教員の力量形成』溪水社をお読みいただければと思います。この本を1999 年に上梓した当時,社会科教育学では教師教育関係の研究は注目されていませんでした。おそらく,社会科教育関係では相当早い時期の力量形成に関わる本だと思います。やや古くなりましたが,この本は,筆者がどのように社会科教師として授業づくりの力量をつけていったかを述べた,ライフヒストリー的な本になっています。今でもそれなりに読む価値のある本ではないかと思います。
 かつて,筆者は,次のように述べたことがあります(伊藤2011,255)。
 学習指導要領がほぼ10 年ごとに改訂されるように,学習指導要領は決して絶対的な基準ではない。民主主義社会とて停滞すれば腐敗し,絶えざる変革が求められる未完成な体制である。従って,私たちは絶えず社会の様相を読みとり,子どもの実態に即した時代を切り拓く実践に心がけていかなければならない。
 未だ,「子どもの実態に即した時代を切り拓く実践」に資する社会科授業づくりに関わる本をまとめられていません。このような,より上級者を対象にした本書の続編とも言うべきものをまとめる機会がありましたならば,あわせて,どのように授業に関わる力をつけるかもまとめてみたいと思います。したがって,筆者の教育研究の「道は続くよ,どこまでも」なのです。
※伊藤裕康・田中健二他編(2011)『社会への扉を拓く-あなたとつくる生活科・社会科・総合の物語-』,美巧社

【目次】
はじめに
第Ⅰ講 授業びらき-始めよければ終わりよし-
 二つの実験から
 子どもが好きな教科は
 楽しくて,社会科である授業を
 騙されない人づくりと社会科
 騙されない人づくりを
第Ⅱ講 社会科教師は「社会科とは何か」を考え続けよう!
 社会科の特性と楽しい社会科授業
 「なぜ,社会科を学ぶのか」が分かる授業づくりを
第Ⅲ講 彼を知り己を知れば百戦殆うからず-子どもとは-
 レディネスがあるか
 子どもを捉える手立て-「放課後の孤独な作業」等-
 患者の病気に効くものだけが薬である
第Ⅳ講 発問づくりのセオリー
 質問とは?発問とは?
 ○○的発問と○○的発問
 知覚関連語で問う
 問いと発問の峻別
 問いの構造と発問の構成
 再び知覚関連語で問うことについて
第Ⅴ講 指示と説明のセオリー
 指示とその原則について
 「AさせたいならBと言え」
 指示の高みへ
 説明することや説明の仕方を明確につかむ
第Ⅵ講 見えるものから見えないものへー教育内容と教材の峻別を!—
 小さい事に忠実な人は,大きい事にも忠実であり,小さい事に不忠実な人は,大きい事にも不忠実です(ルカによる福音書16:10)。
 社会科における地域の意義
 「目に見えないもの」=( ),「目に見えるもの」=( )
 まずは,「教育内容」と「教材」を峻別しよう!
第Ⅶ講 再び見えるものから見えないものへ
 伊藤実践から見る「見えるものから見えないものへ」
 伊藤実践「段差を検討すると身分が分かる」から学ぶ授業づくり
第Ⅷ講 大まかに社会科の授業過程をおさえておこう!
 単元レベルでの展開を考えよう
 単元展開レベルから,再度伊藤実践を考えてみる
 完成された教材がよいわけでもない
第Ⅸ講 暗記の社会科とは言わせないために
 暗記の社会科脱却にむけて
 社会科教材構成の仕方(「見えないもの」から「見えるもの」へ)+
 社会科授業過程構成の仕方(「見えるもの」から「見えないもの」へ)=社会科授業設計の仕方
第Ⅹ講 教師の立ち位置は?
 教師の立ち位置の基本
 発言の指導
 発言を聞く際の教師の立ち位置と評価
 発言を聞く際の教師の立ち位置と次の展開
 話し合いでの意見を聞く順番
第XI講 板書の仕方は?
 板書の機能
 板書の留意事項
 色チョークの活用
 色覚特性の子どもにも配慮
 板書への子どもの参加
 「はりもの」の活用
 その他の板書の効用
第XII講 机間指導の仕方等は?
 机間指導?机間巡視?
 教室環境の整備
第XIII講 社会科学習指導案とは?
 なぜ,指導案を書くのか?
 「教案」と「学習指導案」
 学習指導案という言葉
 「第6学年2組 社会科学習指導案」とは
 二つに分けられる単元観
第XIV講 社会科学習指導案作成の仕方
········ 109
第XV 講 講義を終えるにあたって-一人も傷つくことがない楽しい社会科の授業を-
 「間接性の原理」は,発問や指示だけでなく
 「意味のある」社会科の授業,それは社会科の本質に迫る授業
 一人も傷つくことがない楽しい社会科の授業を
あとがき-道は続くよ,どこまでも-

【著者紹介】
〔著者〕
伊藤 裕康