「ICT活用・情報教育」の学習活動を創造する
ISBN:9784863871977、本体価格:2,700円
日本図書コード分類:C3037(専門/単行本/社会科学/教育)
148頁、寸法:210×297×8mm、重量420g
発刊:2024/08

「ICT活用・情報教育」の学習活動を創造する

【推薦のことば】
放送大学学園次世代教育研究開発センター長・放送大学教授 中川一史(なかがわひとし)
もう30年ほど前になりますが、私が小学校の教員だった頃は、学習者用のパソコンが一部の学校のコンピュータルームにようやく整備されるかどうかというタイミングでした。もちろん、教室にパソコンを持ってくることもできずにいたのですが、たまたま知り合った企業の方からコンピュータ(Mac)数台を借り受け、小学校1年生の教室に置いて、子どもたちとPCとの奮闘が始まりました。もちろん、今の端末の方が性能も良く、何よりも台数が整備されている昨今ですが、当時から子どもたちには自由に使ってもらい、活用ルールも自分たちで話し合って決めていました。今で言う「子ども主体の学び」「学びに向かう力の育成」に寄与できるではないかと考えていました。(→参考:中川一史著「マックが小学校にやってきて、子どもたちはどうなったのか?」アスキー出版局、1995年)
あれから30年が経ち、全国の学校には子どもたち1人1台端末環境がやってきました。どんどん使っている教員や学校が多い中、「活用アイディアの広がりや子どもへの助言の仕方などで困っている」「誰にも相談できない」という話もよく聞きます。
――そんな中、本書が刊行になりました。
本書は、事例の中に、ICT環境や実践の概要の他、「見てわかること」と「聞いて、知ること」がまとめられています。これによって、授業者のICT活用の意図や具体的な「問い」、教員の関わりが、より明確にイメージできる工夫がなされています。子どもたちが制作した作品や学習活動の様子などの写真もふんだんに示されていて、ICT活用に悩んでいる多くの教員の参考になることは、まちがいないです。そして、小学校、中学校、高等学校、情報化担当推進者・教員研修担当者・退職校長の立場からの事例やメッセージが寄せられています。例えば、小学校の教員であっても、ここに掲載された中学校や高等学校の事例は、学習活動を構想する際などに大変参考になるはずです。ぜひ、最後まで読み通してください。本書の中心人物である松下幸司先生は、まさに「実践ウォッチングの鬼」です。複数のカメラがいつも手元にあり、大事な授業の瞬間を逃すまいと、1つ1つの授業を丁寧に見取っています。その松下先生が選んだ事例が、本書に並んでいます。
今更人に聞けない時などにも、本書をICT活用実践の教科書がわりにお読みください。

【はじめに】
2020年度、GIGAスクール構想に基づき、全国の国公立小・中・特支学校等に児童生徒一人一台のタブレット端末が整備され、それ以前に整備が進められていた大型提示装置・電子黒板・プロジェクタ・実物投影装置などと併せて、ICT機器を児童生徒の学習活動に活用する教育実践が、教科学習・総合的な学習の時間等において、多様に展開されています。
一方、平成29・30年の学習指導要領の改訂により、「各学校においては、児童(生徒)の発達の段階を考慮し、言語能力、情報活用能力(情報モラルを含む。)、問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう、各教科等の特質を生かし、教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする。」(小学校・中学校・高等学校の「学習指導要領解説 総則編」より/下線は筆者)と記されました。これにより、学習指導要領において、「情報活用能力(情報モラルを含む。)」が学習の基盤となる資質・能力として明確に位置づけられるとともに、「各教科等の特質を生かし、教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るもの」、すなわち、各教科等の特質をふまえながら、教育課程全体で、言い換えれば「学校教育における全ての教科や学習活動等が手を取り合って、学校教育全体で」、情報活用能力の育成に取り組むことが求められていると言えます。
上に挙げたような「ICTを活用した教育実践」や「情報活用能力を育成することをねらいとする教育実践」は、これまでに数多なされており、各学校の教育研究紀要や書籍・専門雑誌等の実践報告で多く紹介されています。しかしながら、それらの教育実践が、教師によって、また時として教師と児童生徒などとの相互作用によって、「いかに生み出され、創り出され、時として改善が加えられているのか」について、ポイントを押さえてまとめられている書籍に出会うことは殆どありません。また、特に、未来の教員を目指している学生や教員経験の少ない若手教員にとって、授業を参観・観察したり書物を読んだりして捉えることのできる[学習活動]や[教師の支援・指導]を「真似る」ことはできても、その背景にある「教師の思い・考え・意図・ねがい」や「教育信念」などをふまえ捉えて、学習活動を計画したり、児童生徒を支援・指導したりすることは、なかなか難しいと思います。授業における活動や行動などの「かたち」は、捉えることが容易で真似することができますが、「教師の思い・考え・意図・ねがい」や「教育信念」は、その学習活動を実践する教師に話を聞かなければ捉えることは難しく、併せて、自分の教育活動のための資質・能力として吸収することも、また難しいと思います。
本書においては、「ICT機器を活用した教育実践」や「情報活用能力の育成をねらいとする教育実践」の効果的な学習活動の事例を紹介するだけでなく、その学習活動を計画し実践された先生方に、自分の教育実践を振り返っていただき、効果的な学習活動を創り出し実践するために、「教師は何をしなければならないか」「教師はどのようなことを考えておく必要があるか」など、学習活動を計画し実施するための「教師のしごと・勘どころ」の要点を抽出・整理し、まとめていただきました。
特に、授業を参観・観察する機会の少ない大学生のみなさんや、学習指導の経験が少ない若手教員のみなさんにも、子どもたちの学習活動の姿が眼の前に浮かび上がってくるように、実践事例をわかりやすく・具体的にまとめていただくことにしました。読者のみなさんには、是非、「こんな学習活動ができるのか!」「こんな学習活動、私も真似してみたい!」と感じていただければと思います。また、子どもたちの学習活動シーンに対応させて、そのような学習活動を計画・実施するための「教師のしごと・勘どころ」を捉えることによって、教師として必要な「学習活動づくり」のための資質・能力に気づき、意識して磨きをかけていただければと思います。
本書で取り上げている実践事例において活用されているICT機器や授業支援システム、デジタル教材などは、今後「日進月歩」…というより、「瞬く間に」進化し形を変えていくことが予想されます。情報環境やICT機器、デジタル環境などのモノが変化しても、それでも変わらない、授業づくりにおける「教師のしごと・勘どころ」を、本書を通して捉え磨くとともに、それらの変化に伴って、将来新たに必要とされるであろう「教師のしごと・勘どころ」にも、気づきの目を向ける手がかりを、本書の中に見つけてくれることを願っています。
併せて本書では、学校種(小学校・中学校・高等学校)ごとに、教科の学習活動と「総合的な学習(探究)の時間」における学習活動の実践事例を主に紹介しています。ICT活用・情報教育の学習活動を創り出す時、
学校種によって・学習活動によって、「教師のしごと・勘どころ」に違いはあるのでしょうか?
学校種や学習活動を越えて、大切にすべき「教師のしごと・勘どころ」は、あるのでしょうか?
自分が目指す教職免許の学校種や教科、また教員として勤務する初任校の学校種や担当教科等に依らず、学校種や教科/学習活動を超えて、授業づくりにおける「教師のしごと・勘どころ」を複眼的に捉え比較しながら、教師としての自己の資質・能力を磨き高めるための契機に、本書がなってくれればと思います。
令和6年(2024年)3月 香川大学教育学部附属教職支援開発センター 松下幸司

【目次】
推薦のことば 放送大学学園次世代教育研究開発センター長・放送大学教授 中川一史(なかがわひとし)
はじめに 香川大学教育学部附属教職支援開発センター 松下幸司

序章・第一節 「ICT活用・情報教育」とは何か~その史的変遷と教育実践におけるねらい~
序章・第二節 本書の読み方・活かし方
コラム① 学校の先生たちにきいてみた! Q1 「授業づくり」をする際に、まず考える(べき)ことは?心がけていることは?

第一章 小学校における「ICT活用・情報教育」の今・ここから
 第一節【教科・学活】教科学習における「ICT活用・情報教育」学習活動のつくりかた(国語科・学級活動)
    子どもたちが自らICTの活用を考え・決めることで、主体的・個別最適な学びを実現する!
 第二節【教科】教科学習における「ICT活用・情報教育」学習活動のつくりかた(音楽科)
    ICT活用が目的ではない!「授業のねらいに迫るための手段」として活用するICT
 第三節【教科・学活】教科教育・学級活動における「ICT活用・情報教育」学習活動のつくりかた(体育科・学級活動)
    動画や写真記録を活用してメタ認知を促し、自己の課題に気付き、自ら課題解決できる子どもを育てる。
 第四節【総合】総合的な学習の時間における「ICT活用・情報教育」学習活動のつくりかた(2学年・単学年)
    「地域創生」をテーマに「十河のたからもの(十河の香り)」の探究を通して、児童のシビック・プライドを醸成する。
    ~地域のよさや素晴らしさに気付き、地域への愛着をもち、地域の発展のために自分たちにできることを考え、行動する児童を目指して~
 第五節【総合】総合的な学習の時間における「ICT活用・情報教育」学習活動のつくりかた(単学年・異学年縦割り)
    ICT機器の「道具としての日常的活用」と「児童の発見的学習を支える活用」
コラム② 学校の先生たちにきいてみた! Q2 ICTを活用した「授業づくり」「授業を行う際」に、大切に考えていることは?

第二章 中学校における「ICT活用・情報教育」の今・ここから
 第一節【教科】教科学習における「ICT活用・情報教育」学習活動のつくりかた(社会科)
    教師自身が地域を巡り教材研究を行い、歴史探究ウォークラリーを開発!タブレット端末も活用し、地域の歴史の謎を解く!
 第二節【教科・総合】教科学習・総合的な学習の時間における「ICT活用・情報教育」学習活動のつくりかた(技術科・総合的な学習の時間・英語科)
    「一人の百歩より、みんなの一歩」を大切に、「兎に角やってみる」の精神で、ICT活用の推進と実践の蓄積を。
 第三節【総合】総合的な学習の時間における「ICT活用・情報教育」学習活動のつくりかた(学年・学級)
    出前講座や職場体験学習を通して得た情報を整理・分析し、導き出した自分の考えをわかりやすく伝える力を育む。
    交流の場面では、他者の考えを知り、自分の考えを深めることで、高い自己肯定感へとつながる活動にする。
 最新事情【教科】教科学習における「ICT活用」学習活動のつくりかた(英語科/学習者用デジタル教科書の活用)
    学習者用デジタル教科書を使い、自分のペースで、主体的に、教科書本文の復習に取り組む!
コラム③ 学校の先生たちにきいてみた! Q3 情報活用能力を育てる「授業づくり」「授業を行う際」に、大切に考えていることは?

第三章 高等学校における「ICT活用・情報教育」の今・ここから
 第一節【教科】教科学習における「ICT活用・情報教育」学習活動のつくりかた(外国語科/1人1台タブレット端末活用・ペア学習)
    ICTで生徒が「自己との」対話を可能に!「教師との」対話をスムーズに!
 第二節【教科】教科学習における「ICT活用・情報教育」学習活動のつくりかた(外国語科/授業支援システムの活用・グループ学習)
    いつでもすぐに他者と繋がり、複数の視点を受け入れながら、自分の言葉で意見を表現する力を養う。
 第三節【総合】総合的な探究の時間における「ICT活用・情報教育」学習活動のつくりかた
コラム④ 学校の先生たちにきいてみた! Q4 「子ども理解」「学級経営」と、「授業づくり・授業実践」との関係は?

第四章 教育の情報化推進担当者・教員研修担当者・退職校長が語る、「ICT活用・情報教育」の今・ここから
 第一節 教員研修担当者が語る、「ICT活用・情報教育」の今・ここから~香川県学校教育情報化推進計画について~
 第二節 教員研修担当者が語る、「ICT活用・情報教育」の今・ここから~教育現場の先生方に願うこと~
 第三節 退職校長が語る、「ICT活用・情報教育」の今・ここから~教職をめざす学生・若手教員へのメッセージ~
コラム⑤ 学校の先生たちにきいてみた! Q5 学校教育に関わる私たちに「大切にしてほしい」と思うことは?

第五章 総括
 補足資料1 高松市立川添小学校
 補足資料2 香川大学教育学部附属高松中学校
 補足資料3 高松市立屋島中学校
 補足資料4 香川県立丸亀高等学校
 補足資料5 魅力あふれる香川型教育メソッド〈1〉~社会と出会い、問うことを楽しむ「香川型探究学習」編~
 補足資料6 情報活用能力(高松モデル)・情報活用能力の体系表例
第五章・第一節 「ICT活用・情報教育」の今・この書籍から…~「『ICT活用・情報教育』の学習活動を創造する」ためのポイント整理と総括~
第五章・第二節 「聞いて知ること」解説付箋索引 一覧もくじ索引/カテゴリー索引

編著者紹介~あとがきにかえて~

【著者紹介】
〔監著者〕
松下 幸司
〔著者〕
中筋 修
高塚 仁志
大西 美輪
三木 寿人
佐藤 宏一
小野 智史
髙町 浩伸
黒田 由紀子
桃田 由貴子
山下 愛
大河 鷹
濵本 圭祐
鎌田 高明
池本 健志朗
田中 真弓
大澤 由美
高尾 明博
河田 祥司
藤本 泰雄